2019-01-10から1日間の記事一覧

習作の小説 『鶺鴒』 その三

亜里沙は急いで森を出た。来た道を走って戻る。三叉路を曲がって自宅のマンションへ。そしてエレベーターも使わず階段を駆け上がる。運動を得意としない亜里沙の体はとうに悲鳴を上げている。心臓は狂ったように波打つ。咽からは血の腥い塊が押して来る。自…

習作の小説 『鶺鴒』その二

〈ニ〉 不意に喧騒な街を歩く亜里沙の耳に木立が風に吹かれて擦れる音が聞こえた。見上げると重機に食いつぶされた都市開発の残滓とも呼べる森が小島のようにぽつんと浮かんでいる。 亜里沙はそこが予ての目的地であったかのように自然と歩を向けた。立ち入…